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「腫瘍」についてよく知ろう

ペットを撫でていたら、あるいは目に見える場所に(体の皮膚、口内、耳の中、etc.)この間までは確かに存在していなかったはずの「しこり」を見つけたとき、あなたはそれが何だと考えるでしょうか。翌日になってもなくなっていない、ともすればそれが日を追うごとに少しづつ大きくなっているような気もする!「たいしたことはないと思うけど・・・」「もしかしたら癌かも」あなたは色々なことを考えながら、まずは電話で病院に問い合わせてみたとします。「あのう、ウチの犬(猫、鳥、ハムスター、カメ、etc.)の体に何か1センチくらいの固いしこりができているんですが、これ、何でしょうか?」怖いことを言われるのではないかと心配そうな声の飼主さんに、当院のスタッフはきっとこう答えます。「何でしょうね?実際に診察して検査をしないと分りません。よろしければ来院されてみて下さい。」なんとそっけない返答!もったいぶらずに少しくらい教えてくれればいいのに・・・と思われるでしょうか。しかし病気と言うものは実際に診察してみないと、どうしても口頭のみの説明では把握しきれない場合がほとんどです。そのうえ、これからお話する「腫瘍」に関して言えば、正確に診断する上で診察は不可欠、さらに「腫瘍」の種類が異なればその性格も千差万別で治療方法が異なります。また、肉眼上の外見では腫瘍の種類を特定することはまずできません。(予測が可能な腫瘍も一部ある)腫瘍の種類が分からなければ、そのしこりは放っておいても問題ないのか、それとも命を縮めるようなものなのかについても言及できませんし、それ以前の問題として、「しこり」すべてが「腫瘍」ではないという事実があります。しこりを見つけたら、実際に「病院に行って」診察をできるだけ「早く」受けて欲しいと私たちがなぜ思っているか、そのワケをこれからお話いたします。

「しこり」は「がん」?! 「腫瘍」イコール「がん」なのか 「がん」は不治の病?

「しこり」は「がん」?!
いわゆる「しこり(腫瘤)」は、どこにでもできますが、飼主の方が発見しやすいのは、なんと言っても触ったり見たりすることのできる皮膚にできたものでしょう。確かに、動物、犬などでは皮膚の腫瘍発生率は他の部分に発生するものに比べてとても多くなっています。しかし、だからといって皮膚に出来たしこり全てが腫瘍というわけではありません。腫瘍以外のものが皮膚にしこりを作っていることも多くあります。例えば、しこりの中に膿、液体、血液等が溜まっている、組織の過形成(腫瘍ではない、正常な組織が増殖している)等です。しこりの診察の最初にはペットの一般状態や日常生活から始め、そのしこりがいつ出来たか(気づいたか)、大きさ、外観の変化等について質問した後、触診、エコーを必要に応じて使用し、しこりの大体の性格を把握します。この段階で発情に伴った乳腺の過形成などは診断がつくこともありますが、皮膚のしこりであればたいていその次の検査に進みます。



「しこり」が腫瘍の可能性が高いのか、それとも腫瘍以外のものなのかを判断するのにとても有用で安全な検査-「針生検(ニードルバイオプシー)」です.。針生検は、しこりに注射針を刺すことによりしこりの中の細胞を採取し、採取した細胞をスライドグラス上で染色して顕微鏡で観察する検査方法(細胞診)です。通常無麻酔で短時間に実施でき、皮膚のしこりだけでなく場合によっては胸腔内、腹腔内、各臓器にも適用が可能です。(針生検についての詳細は後述)
ここで針生検を行う目的は、しこりの中にどのような細胞が存在するのか観察することによって、そのしこりが「腫瘍」なのか「腫瘍ではない」のか(もしくはどちらの可能性が高いのか)を検査し、しこりに対する次の治療方法を決定するということなのです。

では実際の例で見てみましょう。右は、10歳(♂)の雑種犬です。左頚部(黄矢印)に直径15cm程の大きなしこりがありますが、診察時に発見されるまで飼主の方はこれに気づいていませんでした。針生検を行うと、右写真のように多数の炎症細胞(好中球)が認められ、しこりの中身は化膿していると考えられました。そこで切開してみると、大量の膿が排泄されました。とても大きいしこりでしたが、腫瘍ではなかったわけです。 

次の例は、8歳(♀)の雑種犬です。写真左は、右鼠径部にできた1cm足らずの小さなしこりです。(緑矢印。矢印上に見えるしこり2つは正常乳頭です。)このしこりの針生検像を見ると、丸い細胞が多数観察できますが、これは肥満細胞です。皮膚のしこりにこれだけの数の肥満細胞がみられることは正常ではありません。そのうえ通常の肥満細胞にはたくさんの顆粒が存在するのですがこの細胞はほとんど顆粒を持たず、わずかに矢印の部分に見られるだけです。
このことから、この「ほんの小さな」しこりは肥満細胞腫という悪性腫瘍(がん)であり、さらに肥満細胞腫の中でも顆粒を持たない未分化な細胞からなる非常に悪性度の高いものである可能性が高いことが考えられました。早急な全身状態の検査としこりの手術、それに続く術後の化学療法が勧められる腫瘍です。放置しておくと命を縮めることになる種類の腫瘍のため、この小ささの段階で来院してくれた飼主さんは犬にとってまさに「命の恩人」であった例です。
以上のように、同じ皮膚のしこりであってもその大きさ、形状に関わらず全てが「腫瘍」ではありませんし、その外見上からは正体を知ることは基本的にできません。逆に外見上のみでしこりが何であるかを決めてしまうことは非常に危険だと言えます。

「腫瘍」イコール「がん」なのか
ここまで「腫瘍」という言葉を使って説明してきましたが、これはある特徴を持つ集団を示す言葉であり「腫瘍」という大くくりの中に、さらにその性質が良性である良性腫瘍、たちの悪い挙動を取る悪性腫瘍つまり、いわゆる【がん】が含まれています。例えば、腫瘍の中には乳腺にできる腫瘍がありますが、代表的なものとして良性では「乳腺腫」、悪性のもので「乳腺癌」が挙げられます。たいてい良性腫瘍は「脂肪腫」「肛門周囲腺腫」のように○○腫と呼ばれ、悪性腫瘍は「脂肪肉腫」「肛門周囲腺癌」と××肉腫、△△癌になりますが、先の例で紹介した肥満細胞腫など悪性腫瘍でありながら「腫」が付く例外もいくつか存在します。このように、仮にペットにできたしこりが「腫瘍の可能性がある」と診断されても即それが「がん」であるとは限りません。腫瘍の良性・悪性を正確に知るためには、その腫瘍を専門の検査センターに送り、病理組織学診断によって調べてもらうことが必要です。ただし、いくつかの特殊な腫瘍については前出の針生検などによる細胞診で腫瘍の種類まで診断することが可能なことがあります。(これらの詳細は後述)

「がん」は不治の病?
良性腫瘍の場合は離れた場所に転移もせず、しこりの成長もゆっくりであるという特徴があるため無処置で経過を観察する等の方法を取ることもあれば、しこりの発生した場所が口腔内で食事を取るのに邪魔であるとか、運動するのに動きづらい、またしょっちゅう傷ついて出血をするなど日常生活に支障が出る時や飼主の方の希望がある時には手術で取り除く等の治療を行います。「良性」腫瘍ですから基本的に治療後の経過も良好です。

では、悪性腫瘍「がん」の場合の治療はどうなのでしょうか。治療はできるのか、できたとしても命は助かるのか、結局治らないのではないか等いろいろ疑問があると思います。ひとことで言えば「早期に発見して適切な治療を施せば、治るがんはたくさんある」ということです。時期を逸してしまったり、早期発見でもベストの治療をしなければ治せるものも治らないということです。右の図は、悪性腫瘍の進行度とそれに応じた治療目的の模式図です。早期がんであれば治療する目的は完治(根治)するために行うものであり、進行しすぎてしまったものについては完治はしないがQOL(生活の質)を向上させるという目的のために治療を行います。完治可能範囲と治らないが快適な生活を目指す範囲が一部重なっている部分がありますが(図:点線囲み

部分)、これはがんが非常に進行しているけれども、完治する可能性もまた残っている範囲であり、この進行段階にがんの病状が位置している場合には文字通り「ペットの命をがんから救うために」完治の可能性に賭けた迅速で的確かつ積極的な治療を行うことが飼主の方と獣医師、双方に求められるのです。がんは早期に発見すれば完治できるものが増えていると述べました。しかし、それでも他の病気に比べて治るか治らないかがペットの命を助けられるか縮めるのかという問題に直結することもしばしばであり、治療方法もがんにしか用いない特殊なものが含まれているため、強敵には違いありません。その強敵に立ち向かっていくためにはいくら獣医師だけががんばってみても上手くいきません。治療を成功させてペットの命を救うには飼主の方の治療への協力が必要不可欠なのです!ここまで読まれてきた方はそのことに少し気付き始めているでしょう。冒頭で紹介したしこりのある犬の例です。「大きいしこりだから治らないかも」「小さいしこりだからもう少し様子を見よう」あなたなら、もうそうは考えないでしょう。もし動物病院の先生に「これは腫瘍の可能性がありますね」と診断されたら?「腫瘍・・・てことは・・・がん?!もう治らないかも!」そうも考えないでしょう。しこりは、全てが腫瘍というわけではない、何なのかを調べるには検査をしてもらえばいい。腫瘍には良性と悪性があって、悪性のものが「がん」。でも、「がん」でも早く見つければ治るものが多いし、進行していてもペットのために出来ることがある。-こんな風に理解してもらうことが、「協力」=ペットのがんを治すためのとても大きな助けになるのです。だって、ペットは「しこり」が出来ていても、自分で病院には行けないのですから・・・。

さて、ここまでで腫瘍についてのごくごく基礎的なことをお話してきました。そろそろこんな疑問が出てきているのではないでしょうか?
「じゃあ、しこりを見つけて、病院に検査に来て、腫瘍だって分かったとして、治療はどうするの?抗がん剤を使うんでしょう?毛が抜けたり吐いたりして苦しいんでしょう?」次の項からは「腫瘍の可能性があります」と言われた後の治療その他についてお話ししていくことにします。


「腫瘍」について良く知ろう
腫瘍の治療方法
(治療方法の決定1,2)
各治療方法の効果
外科療法
化学療法
放射線療法
その他の治療方法
日本獣医がん学会


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