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化学療法 化学療法実施までの流れ 化学療法の副作用
ヒトとペットの副作用の違い 副作用の種類―
「副作用を出さない」工夫
利益とリスクを
天秤にかけるということ



化学療法

いわゆる抗がん剤を使用する治療方法です。化学療法自体が主役になる治療もあれば、他の治療の補助として再発を遅らせる、転移性腫瘍を治療する、生存期間を延長させる等のために使用されたり、外科療法、放射線療法前に腫瘍を縮めてそれらの処置がしやすいように行われることもあります。しかし、基本的には化学療法開始前に腫瘍の大きさと細胞数を減らしておいてから適用する場合に最も有効な効果がもたらされます。投与方法は、経口投与、皮下、筋肉、血管内注射などが中心になります。

化学療法実施までの流れ

 腫瘍が何か、そしてその進行度はどの程度かを把握する
  化学療法は悪性腫瘍「がん」にのみ適用される手段です。そのためには(外科療法で説明しましたが)病理組織検査で腫瘍の正体が正確に「悪
  性腫瘍である」と判明していることがまず第一の条件になります。一部の腫瘍、皮膚のリンパ腫やTVT(可移植性性器肉腫)などでは簡易なバイ
  オプシーでも腫瘍細胞の特徴、発生部位等から確定診断に到る事ができますが、ほとんど全ての腫瘍に関して病理組織検査抜きでは診断が
  つきません。(つけてはいけない!)
 ペットの全身状態をチェックする
  現在の状態はどうか、持病はあるか、腫瘍に伴う合併症はどの程度か、内臓や他の諸機能がきちんと働いているかどうか。これらは、化学療法
  を実施しても体力的に問題が無いか、また問題があるならそれを改善することをはじめ、使用する薬剤の種類を変更する、化学療法そのものを
  行わない等の判断材料になります。
 他の手段を検討する
  他の治療方法(外科療法)などで根治可能であればそちらを選択するようにします。根治可能な他の方法が無い場合(手術で取りきれない、放
  射線治療が受けられない)に適用します。
 治療に伴う利益とリスクを理解する
  化学療法はがんに対して効果をもたらす反面、副作用というリスクももたらします。これを知ることは治療をする獣医師は当然ですが、飼主の方
  もまたしっかり知る必要があります。使用される抗がん剤の種類やプロトコール(使用方法)によって発現する副作用の種類も程度もさまざまで
  す。これらの知識について治療前に両者がしっかりと話し合い、理解を深めることが大切です。副作用については後述します。
 


化学療法の副作用

「抗がん剤」-誰しも聞いたことのある言葉のひとつでしょう。そして、そこからイメージされるものといえば、辛く苦しい治療ー大体そういう感じではないでしょうか。実際腫瘍の治療方法を飼主さんと話し合う最初の場面でも、「抗がん剤を使って・・・」という説明が始まるやいなや「抗がん剤を使うのは嫌です!」と即答されることがしばしばあり、皆さんの持たれている抗がん剤に対するイメージの悪さを実感します。多分それは、ヒトの医療でも頻繁に行われているものであるため、知人家族など身近な人で化学療法の経験を持つ方がいらっしゃったりして、その話を聞いたことがあるとか、本やドラマの中でその治療の様子が取り上げられているといったことから知りえた知識だと思います。私たちはヒトでの抗がん治療に関しては全く知識がありませんから、そのことについては何も語れませんが、ペット(犬猫)に限って言えるとすればそこまで恐れおののき毛嫌いする程のものでは決して無いということです。確かに副作用が無いのかといえば、副作用はあります。しかし、「副作用が存在する」ということと「副作用が実際ペットに発現する」ということは別の事です。また、副作用の事を考える時には、副作用の内容も軽度な副作用と重度な副作用とに分けることが必要になってきます。

ヒトとペットの副作用の違い

まず初めに知っておくべきことは、ペット(犬猫)ではヒトよりも副作用自体がかなりでにくいという事実です。獣医療において使用される化学療法剤(抗がん剤)は全てヒト用のものを利用しています(動物専用の抗がん剤は存在しない)。そして、そのプロトコール(使用方法)もまずヒトでの方法を基礎にしてペットに適したものに改良されています。しかし、ヒトと同じ薬品を使用してもペットの方が明らかに副作用の出方が少ないことが分かっています。それは薬剤に対する感受性の違いから生じているためで、それゆえヒトで副作用がひどいから犬猫でもそうだろうという考えを当てはめることは必ずしも正しくはありません。

副作用の種類―「副作用を出さない」工夫

ペットではヒトと比べて副作用がかなり出にくいのは事実なのですが、使用する薬剤から副作用が出ることもまた事実です。副作用にはどんなものがあるか主な例を挙げてみましょう。

 骨髄抑制
  骨髄では白血球、血小板、赤血球が作られているため、抑制が起こると白血球の減少→細菌感染、敗血症、血小板の減少→点状・斑状出血、
  赤血球の減少→貧血などが起こります。抑制を引き起こす強さの度合い、その抑制が薬剤投与後何日でピークになるかは薬剤によって異なり
  ますから、それを見越して血液検査を実施しピーク時の抑制が許容範囲内であるかをチェックします。ある程度の抑制が起こってもそれは一時
  的なもので普通時間と共に問題なく正常に回復します。もし何らかの症状が現れた場合にはそれらについての治療を行い、さらに抑制を引き起
  こした薬剤は骨髄の機能が回復するまで投与を中止、以後も減量する、もしくは薬剤を変更する等の処置をとります。
 消化管毒性
  主な症状は嘔吐と下痢です。症状が現れた場合には制吐剤や胃腸粘膜保護剤、消化管運動調節剤などを使用しますが症状の現れる頻度が
  高い薬剤では症状が現れる前に予防的に投与しておくこともあります。
 脱毛
  体毛が常に成長し続けているような動物(マルチーズ、プードル、シュナウザー、オールドイングリッシュシープドッグなど)には見られることがあ
  りますが、それ以外ではまれです。猫ではヒゲが抜けることがあります。
 その他
  心筋毒性、腎毒性、出血性膀胱炎、アレルギー反応などがあります。

抗がん剤は細胞が分裂・増殖する過程を阻害して、その効力を発揮しているため癌細胞以外の正常細胞でも「さかんに増殖している」細胞は癌細胞と同様に攻撃されてしまいます。そのため上記のような「さかんに増殖し新陳代謝の激しい組織」に副作用が発現するのです。しかし正常細胞は腫瘍細胞とは異なり、抗がん剤の攻撃を受けて障害されてもそれをうまく修復する能力を備えています。ですから抗がん剤の投与は、影響を受けた正常細胞は元通りに回復しているが癌細胞はまだ増えることができないという間隔で投与することが必要なのです。最も良いタイミングで投与を行わないと、早すぎては正常組織の回復が遅れ(重い副作用の発現)遅すぎては効果が現れません(癌細胞も回復して増えてしまう)。また、使用した薬剤の種類により、どんな組織にどんな症状の副作用がいつ頃現れるのかはあらかじめ予想がつくため、先手を打って異常がないかどうか定期的に検査をし、または予防的に何らかの対処をしておくことにより副作用の発現を無くす、軽減させることが可能になります。そこで、ペットが化学療法を受けている場合には安全かつ有効に治療が行われるために、飼主の方にも次回の治療予定日や検査予定来院日を守って頂く事が大切になります。

利益とリスクを天秤にかけるということ

今まで例を挙げてきた副作用は、軽度なもの(一時的でペットへの影響も少なく回復可能)と重度なもの(持続しており影響が深刻で回復不能)と2種類に分けることができます。重度な副作用の発現は、不適切な抗がん剤の選択や投与量、投与間隔、副作用の発現兆候をチェックする体制の甘さなどから生じるため、獣医師側が抗がん治療に対して十分な知識と注意を持ち、飼主の方も治療に積極的に協力(投薬やペットの日常生活の管理に関して指示に従う、ペットの状態の変化をよく観察する等)してもらえるならばまず防ぎうる問題です。それでも重大な副作用が発現してしまった場合には直ちにそれまでの治療内容を変更し、副作用に対する治療を行います。なぜなら、重大な副作用はペットのQOL(生活の質)を低下させてしまい、命まで縮めてしまう可能性があるからです。しかし、軽度な副作用の場合は少し解釈が異なります。何らかの処置を施してあげれば症状は治まりますし(嘔吐や下痢)回復もします(一時的な白血球の減少など)。もしペットの悪性腫瘍が中程度に進行しており、根治できるかできないかの境目であったらどうでしょうか。フルパワーで癌と戦わねば癌が完治しない、癌により死んでしまう可能性が高いとしたら、それでもあなたは「この子のヒゲが抜けてカッコ悪いから抗がん治療もうイヤ」と考えますか?いえ、抗がん治療を続ける事を選んでくださいと言っているわけではありません。「軽度な副作用=直接ペットの生死に関わったりQOLの低下を招かない程度の副作用」と比べなければならないものは、ペットの癌が根治するかどうか、つまり「ペットの命」だということをはっきりと認識して欲しいのです。脱毛や、薬でおさまる一時的な嘔吐や下痢と、癌で命を縮めることを天秤にかけてみて下さい。それでも脱毛の方が許容できないと結論が出たのなら、抗がん剤は中止します。治療をする、しないの最終決定権は飼主のあなたにあるからです。もちろん私たち獣医師は、小さな副作用なら出ても仕方ないなどとは全く思っていませんし、どんな副作用も出さないように最大限の努力を払います。しかし、副作用が出た場合でも、それが許容範囲であれば容認しなければならない場面が確かに存在します。要は、何が一番大切で、優先されるべき治療の目標なのかということです。この考えからすれば、根治可能な進行度であればある程度の副作用もその都度の対症療法で乗り越えてもらい、まずは完治することを優先するのが必要だろうし、既に根治を望めない段階であれば、一番の目標はできるだけ苦痛や不自由がなく生活してもらうことでしょう。その上でもし癌の進行を遅らせたり症状を軽減させることができるのであれば抗がん治療を実施することになります。しかし、この場合は優先項目がQOLの向上ですから、小さな副作用でも出ないように治療を施さないといけないわけです。
私たちはペットの癌が今どういう状態でそのため治療の目標がどこにあるかを明確にしてお知らせします。そして、抗がん治療によって得られる利益と副作用をはじめとするリスクについても全て説明します。腫瘍についての知識不足から来る誤解や先入観が誤った判断を生じないよう、今まで述べてきたような腫瘍についての知識をできるだけお話します。飼主のあなたが、それらを天秤にかけられるように。



「腫瘍」について良く知ろう
腫瘍の治療方法
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日本獣医がん学会


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