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A-23 代謝性骨疾患による全身の多発性骨折と
寄生虫の濃厚感染が認められた妊娠メスの例

写真1

エボシカメレオン Chamaeleo calyptratus
♀ 体重145g

自力採食不能、枝に上手く捉まれず、ケージの床で生活している状態。四肢は腫れあがり、手首の方向がおかしく、口は閉じることができません。



写真2
下顎が骨折し、飛び出ています。
写真3
右前肢の腫れた部分に開いた穴からは透明な液体が染み出ていました。


写真4
レントゲン写真では、この個体が卵を持っていることが分かりました。まだそれほど大きく育ってはいません。
写真5
頭部の写真。黄色矢印:下顎の骨折部分。


写真6
L:左前肢の骨折部分。手首寄りの箇所が細かく折れているようです。
R:右前肢の骨折部分。手首から1/3肘寄りの箇所が折れています。その折れた骨の断端が刺激して写真3のような穴が皮膚まで穿孔して漿液が染み出ていたのです。
どの骨折部位もあまりはっきりと撮影できていませんが、これは骨の密度が異常なため、筋肉等とのコントラストが付かなくて非常に見難い状態になっているのです。本来健康な骨であればもっと鮮明に白く写るはずなのです。

写真7
黄色矢印:左後肢の骨折部分。大腿骨の真中あたりがボッキリと折れ、完全に離れて食い違っています。

このように、全身の数箇所にわたって骨折が見られますがレントゲンでの骨の写り方から見ても明らかにカルシウムの代謝が正常に行われず、骨が脆くなったために生じた病的骨折です。僅かな力や圧力がかかっただけで、例えば飼育者がカメレオンを枝から引き離すのに「普通の」力で引っ張っただけでも起こってしまう異常な骨折です。カルシウム代謝の異常が起こる原因には色々なものがありますが主なものとしては以下のような事柄があります。
○ 食事中のカルシウム不足
餌昆虫に対して栄養価を高めるような食事を与えていない・餌昆虫にサプリメントとしてのカルシウムを振りかけて
から与えていない。
○ カルシウムを体内で利用するために必要なビタミンD3の不足/過剰⇒紫外線不足/サプリメントとしてのD3の過剰
   供給

カルシウムはビタミンD3の存在下で初めて利用可能になります。直射日光による日光浴や爬虫類用の紫外線ライト等の使用により必要なビタミンD3は爬虫類の皮膚で合成することができますが、紫外線が不足するとそれらの代謝が行われず、カルシウムを与えていても生体内では利用できないということが起こります。また、不足を気にするあまりサプリメントとしてのD3を過剰に与えてしまうと、不足している時と同様な障害が生じ、さらにD3は長期間体内に貯蔵される性質があるため治すのは難しくなります。どれだけの量のD3を日常的に経口で与えればよいかという事柄はまだ正確には明らかになっていませんので、紫外線照射により生体自ら合成してもらう事が安全であり(その場合には過剰に生産するということはありません)もしくは過剰にならないようひかえめに経口で与える事が必要です。
○ 消化管の機能障害によるミネラル、ビタミン等の吸収不良
与える栄養面や紫外線に配慮していても、生体の吸収能力に異常がある場合にはその効果が発揮されません。例えば飼育環境の中でその種類に適した温度勾配が再現されていず、摂食後にバスキング等を行って体温を高めることが出来ないと消化管は正常に機能しないため消化・吸収も十分に行われないことになります。夜間、その種が許容できないような低温下にさらされることでも起こり得るでしょう。その他、日常的に多食させ過ぎたり、消化管内寄生虫が大量に寄生していることによっても消化管は疲弊し、ダメージを受けて吸収不良が生じると考えられます。
○ 腎不全によるミネラル代謝異常
腎臓はカルシウム等のミネラル代謝に関与しています。何らかの原因により腎不全が生じると上記に述べた他の要因に問題が無くとも代謝異常が起こります。腎不全になる主な原因としては脱水、高蛋白の食事の供給などがあり、また長期間のカルシウム不足が持続した末期や、ビタミンD3の過剰投与によっても最終的に腎不全が併発されます。


便検査によりこの個体には3種類の消化管内寄生虫が認められました。
写真8 コクシジウムシスト  写真9 条虫卵  写真10 線虫卵(青矢印:コクシジウムシスト。線虫卵とは大きさがかなり異なる。)
どれもかなりの数が観察され、特にコクシジウムは異常に増殖していると思われました。
コクシジウムは非常に小さい寄生虫であり、便中に排泄されたシストを再摂取することにより再びその数を腸内で増加させることのできる直接感染型の寄生虫です。種類により胆管や腸粘膜に侵入し、増殖する際には腸細胞を破壊して行く為、増えれば増えるほど腸粘膜のダメージは重篤になります。比較的病原性が低いと言われている条虫・線虫も、このように複数・大量の寄生虫が混合感染している場合にはその病原性が現れてくるはずです。

衰弱が激しかったため、治療は温度管理をした入院下で行い、輸液、カルシウム・ビタミン類、骨折部位からの漿液の細菌培養・感受性検査により決定した抗生物質、その他薬剤の注射による投与、強制給餌、消化管内寄生虫の駆除を実施しました。骨折に関してはカルシウム吸収が正常化しないと骨の癒合が起こらないだろうことと、他の治療と比較して優先順位が低い(すぐには死に直結しない)と判断したため一般状態がある程度落ち着いてから行うことにしました。
治療開始後3週目には枝に身体を保持することが可能になってきていたため、骨折の整復処置を行う予定を立てました。しかし、23日目の夜間に産卵を行い、54個の卵をケージ内にばら撒いてしまいました。


写真11
治療開始後24日目(産卵翌日)の状態。自力で枝に登り、掴むことが可能になっています。しかし骨折部分はまだ癒合していないため掴まり方や姿勢は異常です。

写真12
下顎は腫れており、閉じることができません。これも代謝性骨疾患の症状のひとつです。自力採食もまだできません。

写真13
同24日目の全身像。なんとか枝にとまっていますが、力無い様子がよく分かります

写真14
ばら撒かれた為発見した際には干からびていた卵。どれも卵殻が形成されており、この状態でこのような卵を産卵できたことが少々驚きでした。しかし、通常なら観察されるであろう産卵前の行動等がよく確認できなかったことと、清潔な環境を保つ為に産卵床をケージ内に設置していなかったため卵を救うことはできませんでした。もしあらかじめ産卵床を用意してあったとしてもこの個体の状態で通常通り産卵床に卵を産むことが可能だったかどうかは疑問ではありますが・・・。

産卵後も治療を行いましたが嘔吐・下痢が認められるようになり急速に衰弱し治療開始後33日目、産卵後9日目に死亡しました。


PART2 : 死亡後の解剖へ続く



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