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C-5 腹腔内の腫瘤摘出術を行った例


写真1

グリーンイグアナ ♀   Iguana iguana
体重3.66kg  ’96生まれ(初診時5歳程度)

SVL5cmの頃から飼育しているが、一度も産卵歴はなし。2回ほど代謝性骨疾患により骨折したことがあるという個体です。
1ヶ月ほど前から腹部が大きくなり、食欲も低下、3週間前からは水以外何も食べないとのことで来院されました。
レントゲンを撮ると、腹部全体が真っ白く写り(黄色矢印で囲んだ部分)卵詰まりや排卵前卵胞のような様子には見えませんでした。

超音波エコーで腹部を検査すると、腹部の膨らみは一塊の腫瘤のようでした。
A:腫瘤(白く写っている部分)の中に1cm程度の液状物質を含む部分(黒く丸く抜けている黄色矢印部分)が認められます。
B:さらに腫瘤の他の部分にはやはり液状物質を含むと思われる1~2cm程度の部分がいくつか認められました。(黄色矢印部分)
これらは正常な卵や卵胞、その他の腹腔内の臓器の構造とは到底考えられないことを示しています。


造影剤を飲ませて消化管内の流れと腹部の腫瘤の関係を調べたレントゲン像です。
C:造影後4時間経過しても、造影剤が胃から少しも流れていません。(黄色矢印のより白く写っているのが胃内に貯留した造影剤)
D:同時間の横からのレントゲン写真。向かって左が頭側。黄色矢印で示したより白く写っている三日月形のものは胃内の造影剤です。その右に占拠する丸い腫瘤に押しつぶされる形で造影剤が流れるのを阻まれている状況が良く分かると思います。
この状態では何も食べられないのは当然ですし、腹部が大きくなっているのも正常な卵のせいではないため、開腹手術を行うことになりました。




写真2
術前の様子です。気管挿管をしてガス麻酔をかけています。心電図、呼吸、酸素・二酸化炭素・麻酔濃度のモニターを設置し、骨内輸液を行っている状態です。
写真3
腹部を消毒し、2重に滅菌ドレープで覆っています。ビニールシート様のものも滅菌ドレープです。



写真4

腹部を切開すると、すぐに巨大な腫瘤が現れました。太い栄養血管が目立ちます。腫瘤に占拠されて他の臓器が見えません。
写真5

腫瘤は血管が多く、非常に脆いため、傷つけると大出血を起こす危険がありますから、慎重に腹腔の外に取り出します。腫瘤の一部に卵胞らしき黄色い黄身が付着しています。
写真6

左の卵巣らしき腫瘤を腹腔外へ取り出し、背面にある太い血管を結紮します。これらの血管も非常に脆いものです。


写真7

血管を結紮後、切断して腫瘤を取り除いた後。結紮された血管の断端をピンセットの先で示しています。
写真8

写真青矢印が結紮離断部分。周囲には腫瘤によって押しつぶされていた消化管が見えています。黄色い塊は右卵巣の卵胞です。見かけは正常なようですが、左腫瘤と同様にしてこちらも切除しました。また、卵管についても左右とも切除しました。


写真9

腹部を閉じている所です。まず腹膜と腹筋を一緒に縫合します。溶けて吸収されるタイプの縫合糸を使用します。
写真10

次に皮膚を縫合します。傷が完全に治るまでには時間がかかるためここでは溶ける糸は使用しません。
写真11

縫合終了。



写真12

ガス麻酔を切り、覚醒させます。巨大な腫瘤が腹腔内から除去されたため、腹部がかなりへこんでいるのが良く分かります。


写真13
上:左卵巣と思われる巨大な腫瘤。何と664gの重さがありました。エコーで見た通り、巨大な腫瘤には大小の卵胞が付着しています。このような異常な卵巣では、いくら待っても産卵は行われないはずです。
下:外見上正常と思われる排卵前卵胞の状態の右卵巣。通常はこの状態の卵胞が徐々に成長していき、時期が来ると卵管に出て行ってそこで卵殻が作られ、産卵に至ります。
写真14
左卵巣腫瘤を1/4に分割し、さらに切れ目を入れた状態。腫瘤内部は柔らかく、「麩」のような感触でした。

これらの左右卵巣は詳しい検査のために病理組織検査を行いました。


病理組織診断の結果では、この腫瘤は卵巣腫瘍でありながら、卵巣には無い組織・構造も認められるため奇形腫の要素が存在する可能性があり、また腫瘍細胞の形態からは悪性に分類されるとの事でした。
術後は終日を通して最低気温が30℃を切らない様に温度管理を徹底してもらい(最低最高温度計を使用してチェック)、自宅では温室内で飼育を行いました。傷の治癒、食欲の回復等には何よりもまず正しい温度管理が不可欠です。いくら手術をして病気の原因を取り除いたとしても、その後の日常生活の管理がイグアナに必要な条件を満たさなければ結局は治りません。全ての治療は無駄に終わってしまいます。
食事に関しては、しばらくはミキサーにかけた野菜等を強制給餌してもらいましたが術後7日目からは徐々に自力で採食をし始め、3週目には元気、食欲、傷の経過も良好なため抗生物質の投与も終了しました。食欲については以前と比較して、正しい温度管理を実行しはじめた術後の方がより多くなったとのことでした。


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